「アライナー」という装置を歯に取り付けて、徐々に歯を動かしていくのがマウスピース矯正です。
患者さまに合う装置をオーダーメイドできるほか、食事や口腔ケアの際は取り外して洗うことができます。さらに見た目が透明なので、至近距離で見られない限りは他人に気付かれる心配もありません。
一方で適用できない症例があるなど、懸念点があることも事実です。どのようなデメリットがあるのか、記事の中で詳しく解説します。
デメリットについて
まず一番の魅力は、日常生活に支障をきたさず歯列を整えられるという点です。透明で目立ちにくい外見をしており、患者さま自身で簡単に着脱できます。
一方で、次のようなデメリットも存在します。
1.適用できる症例に限りがある
ワイヤー矯正ほど幅広い症例に対応しておらず、中でも大幅な移動を必要とする症例には向いていません。無理やり行うと、期待通りの効果が得られない可能性があります。
2.健康な歯を削ることがある
場合によっては、歯を並べるためのスペースを確保する目的で、健康な歯を削らなければなりません。1ヶ所あたり0.5ミリ程度と削るのはわずかですが、健康な歯を削ることに抵抗がある方もいらっしゃるでしょう。ちなみにエナメル質が削られるだけなので、痛みが生じる心配もありません。
それでも不安な方は、あらかじめ歯科医師に相談しましょう。不明点などはできるだけ解消し、ポジティブな気持ちで治療に取り組むことがポイントです。
3.治療終了後に奥歯へ不具合が生じる可能性がある
装置を取り付けると、前歯から奥歯まで歯の全体が覆われた状態になります。装置の厚みにより、奥歯の咬合が変わる可能性があるでしょう。
しかし治療中は、装置を付けているのでなかなか気付くことができません。治療が終わって初めて、奥歯に違和感を覚えるでしょう。食事の際、咀嚼のしにくさを感じる可能性もあります。
4.装置を長時間装着しなければならない
治療計画通りの結果を手に入れるためには、1日20時間以上装置を付けて生活するのが理想です。
食事とブラッシングの際以外は装着するのが基本ですが、自己管理が苦手な場合、再度取り付けることを忘れる可能性があります。
違和感が生じて付け外しを繰り返すのも、あまりよいことではありません。結果として、治療期間が長引く可能性もあります。
5.飲食のたびに着脱が必要
食事と口腔ケアの際は、毎回装置を外さなければなりません。水分補給であっても、水や白湯、無糖の炭酸水を飲むとき以外は外す必要があります。そのまま飲食をすると、口腔トラブルのリスクが高まるので気を付けましょう。
6.装置を紛失する恐れがある
取り外した装置をそのまま置き忘れて、失くしてしまうリスクも挙げられます。着脱可能=便利だと思われがちですが、そのぶん管理が必要になることを忘れないでください。
万が一紛失した場合、装置の作り直しが必要です。費用も時間もかかってしまうので、治療中の管理を徹底しましょう。最悪の場合、海外から装置が到着するまで1ヶ月程度治療がストップするかもしれません。
紛失が心配な場合は、患者さまご自身で着脱できないワイヤー矯正を行うのがよいでしょう。
適用できない症例とは?
歯列や咬合の状態によっては、マウスピース矯正を適用できない場合があります。
その具体例について、1つずつ説明します。
1.重度の受け口(下顎前突/反対咬合)あるいは八重歯(乱杭歯)である
まず挙げられるのが、下顎が極度に突出している受け口や、デコボコの歯列になっている八重歯です。いずれも元の位置から歯や顎骨が大幅にずれて生じるため、重度の場合は歯列矯正での改善が困難です。
2.顎のずれに明らかな左右差がある
顎変形症が原因で歯列や咬合の不具合が起こっている場合、歯列矯正では改善できない可能性が高いです。
3.上下の奥歯の咬合に異常がある
このケースも、大幅に歯を移動させなければなりません。短距離の移動に適したマウスピース矯正は、不向きの症例といえるでしょう。無理に動かそうとしても、期待通りに移動せず費用と期間だけがかさむ可能性があります。
大幅な移動が必要な症例には、ワイヤー矯正が適しています。
4.抜歯によって必要以上の空間が生じる
こちらも移動距離が関係しており、抜歯で生じた空間をマウスピース矯正で埋めることは困難です。まずはワイヤー矯正である程度歯を並べたのち、マウスピース矯正へ移行するのがベストです。
ただ歯列矯正における抜歯は、必ずしも必要であるとは限りません。自分の症例について抜歯の必要性を知りたい方は、かかりつけ医へ相談してチェックしてもらいましょう。マウスピース矯正の適用可否に関しても、事前検査や診断を受けたうえで判断してもらうことがポイントです。