インプラントは失った歯を補う治療法の一つですが、人によっては歯並びも良くなると勘違いしてしまいやすいです。
結論から言うと、インプラント治療は歯並びを良くするための治療ではありません。
この記事では、インプラント治療の目的や治療が難しい人の特徴、矯正治療との違いなどを詳しく解説します。
インプラント治療で歯並びは治せる?
インプラント治療は、歯並びを良くする治療ではないため、歯並びの悪さは原則治らないと認識しておくことが重要です。
ここでは、インプラント治療で歯並びは治せるかについて詳しく解説します。
歯並びを良くする治療ではない
インプラントは、失った歯の機能性や審美性を補う治療法であり、歯並びそのものを良くするためのものではありません。
見た目的には自然な仕上がりになりやすいですが、歯列全体を動かすような力は加わらないため、歯並びの改善効果はあまり期待できません。
巷ではインプラントで歯並びを治せるといった趣旨の記事を見かけますが、注意が必要です。
確かに、インプラントによって咬合不良を引き起こしている歯を治療すれば、治療した部分だけは歯並びが改善したかのように見えます。
しかし、歯列全体が改善されるわけではないため、注意が必要となるでしょう。
歯並び悪さは原則治らない
インプラント治療を行っても、歯の位置や向きを変えることはできないため、歯並びの悪さ自体は治りません。
むしろ、歯列が乱れた状態のままインプラントを埋入すると、噛み合わせのバランスを崩したり、周りの歯に悪影響を与えたりする可能性があります。
したがって、歯並びの問題がある場合は事前に矯正治療の検討が望ましいです。
インプラント治療が難しい人の特徴
インプラントは喫煙している人、食いしばり・歯ぎしりする人、重度の歯周病を患っている人、チタンアレルギーがある人、特定の持病がある人などには難しいです。
妊娠している人、放射線治療中の人、未成年の人、免疫異常がある人も難しいでしょう。
ここでは、インプラント治療が難しい人の特徴について詳しく解説します。
飲酒・喫煙している人
喫煙は、インプラント治療の成功率を左右する要因の一つです。
具体的にいうと、ニコチンによって血流が悪化し、骨とインプラントの結合が妨げられ、治療の成功率に影響を与える可能性があると報告されています。
日本歯科医学会でも、禁煙指導が治療の成功率に関わる可能性があると報告されています。
治療中は、飲酒など口腔内環境に悪影響を与える可能性のある行為も避けるのが望ましいです。
食いしばり・歯ぎしりする人
食いしばりや歯ぎしりなど、過度な咬合圧や衝撃はインプラントに負担をかけます。
ナイトガードやマウスピースなどを装着することで対応できる場合もありますが、食いしばりや歯ぎしりが激しい人にはやや不向きです。
重度の歯周病・虫歯がある人
重度の歯周病や虫歯がある人も、インプラント治療が難しい場合があります。
特に、歯周病によって顎骨が吸収されている場合はインプラントの埋入が難しくなるため、事前に治療を行い、骨の状態を改善することが必要です。
国立研究開発法人・国立成育医療研究センターなどでも、歯周病と全身疾患との関連性が報告されています。
また、虫歯も口腔内の環境に悪影響を与える可能性があるため、適切な治療が必要です。
チタンアレルギーがある人
症例は限られますが、インプラントの主材料であるチタンに対してアレルギーがある場合は治療が難しくなる可能性があります。
しかし、最近では金属アレルギー用のジルコニアインプラントなども登場しており、取り扱いのある歯科医院であれば対応可能です。
特定の持病がある人
心疾患や糖尿病など全身的な持病をお持ちの人は、治療中や治療後の感染リスクがあるため、慎重な評価が必要です。具体的な疾患としては、以下のようなものがあります。
- 高血圧症
- 骨粗しょう症
- 心疾患
- 糖尿病
- 白血病
- 血友病
以上で挙げたものは一部ですが、人によってはインプラント治療が難しい場合もあるため、担当の歯科医師に相談のうえ、治療の可否を判断してもらいましょう。
もちろん、必ずしも感染のリスクがあるわけではないため、一度治療計画について具体的にカウンセリングを受けてみるのが良いでしょう。
妊娠している人
妊娠中はホルモンバランスの影響で歯茎や骨が敏感になりやすいとされている他、レントゲン撮影を伴うため、原則として出産後に治療を行う必要があります。
外科手術が必要となる場合もあるため、妊娠している人は予定をずらすことが必要です。
放射線治療中の人
頭頸部に対して放射線治療を行っている人は、骨の血流が低下している場合があり、インプラント治療による骨結合が困難とされています。
他の補綴方法を選択すれば治療可能な場合もありますが、注意が必要です。
未成年の人
顎が成長途中である未成年者には、原則インプラントの埋入は行われません。
未成年の場合、骨格の変化によって位置がずれるリスクがあるため、顎の成長が完了してから対応するのが一般的といえるでしょう。
免疫異常がある人
自己免疫疾患があったり免疫抑制療法を受けていたりする人は、免疫異常の観点から感染症リスクがあると判断され、インプラント治療できない場合があります。
手術におけるリスクもゼロではないため、慎重な対応が必要です。
インプラント治療と矯正治療の違い
インプラント治療と矯正治療は治療する目的をはじめ、期間や費用、方法などが根本的に違ってくるため、別物と認識しておくことが必要です。
ここでは、インプラント治療と矯正治療の違いについて詳しく解説します。
治療する目的
インプラントと矯正では、治療する目的が違います。
- インプラント:失った歯の機能性や審美性を回復させるのが目的
- 矯正:噛み合わせと歯並びを改善するのが目的
両者は口内の健康を守るという共通の目的がありますが、インプラントは失った歯の機能性や審美性の回復、矯正は噛み合わせと歯並びの改善が主な目的です。
お互いに代替的ではなく補完的な関係性となるため、どちらか一方だけで両方の効果を期待することはできません。
治療にかかる期間
インプラントと矯正では、治療にかかる期間も違います。
- インプラント:平均2~6ヶ月と比較的短め
- 矯正:平均1年~2年と比較的長め
期間として挙げたのはあくまでも平均的な数字で、人によって治療にかかる時間は変わりますが、インプラントは数ヶ月単位かかるのに対して矯正は年単位かかるのが一般的です。
治療にかかる費用
インプラントと矯正では、治療にかかる費用も違います。
- インプラント:数十万円ほど
- 矯正:数十万円~百数十万円ほど
費用に関してはどちらも自由診療となるため、保険が適用されない点では共通しています。実際にどちらも保険適用外で、すべての費用を自己負担しなければいけない点は同じです。
しかし、実際の治療にかかる費用は両者で変わってくるため、注意が必要となるでしょう。
使用する素材やメーカー、追加で必要な処置の有無、本人の健康状態など様々な理由で治療費用は変わるため、見積書で具体的な料金を確認しておくことが重要です。
治療を行う方法
インプラントと矯正は、治療を行う方法にも違いがあるため、注意が必要です。
一般的に、インプラントは人工歯根を顎の骨に埋入する外科的なアプローチが主流ですが、矯正は金具装置のブラケットや固定具のリテーナーを使用するアプローチが主流となります。
どちらも患者の口腔内の状況によって選択する方法を変えなければいけないため、必ずしも同様の方法となるとは限りません。
インプラント治療と矯正治療の優先順位
インプラント治療と矯正治療を行う場合、矯正を先に行うのが原則です。
咬合や歯列を整えたうえで、最終的な歯の位置に合わせてインプラントを埋入することで機能性・審美性を得やすいとされています。
逆に歯並びが整っていない状態でインプラントを埋め込もうとすると、正確に矯正されず、むしろ悪化する可能性が否めません。
しかし、担当医によってどちらを優先するかの判断が変わることもあるため、一度相談してみるのが良いでしょう。
インプラント治療と矯正治療は併用できる?
先に矯正治療を行い、歯並びが整った後に必要な部分にインプラントを入れるのが一般的な流れとなるため、併用する歯科医師は稀といえるでしょう。
理論上は併用も可能ですが、リスク回避の観点からは避けるのが望ましいです。
歯科クリニックのなかにはインプラント治療と矯正治療、それぞれ対応しているところはありますが、両者を同時進行するかどうかは専門医の判断に委ねられます。
歯並びを治すのに矯正治療が必要な理由
歯並びを治すためには、インプラント治療ではなく矯正治療が必要です。
ここでは、歯並びを治すのに矯正治療が必要な理由について詳しく解説します。
専用の矯正器具が必要となるため
歯を動かすとなると、ブラケットやマウスピースなど専用の矯正器具が必要です。
インプラントは、あくまでも顎の骨にインプラント体を埋入して人工歯を固定する治療方法となるため、歯並び自体を整える効果は期待できないでしょう。
歯並びを治すという観点であれば、矯正治療が不可欠となります。
抜歯や埋入だけでは治せないため
歯を抜いてインプラントを入れるだけでは、隣接する歯の位置や噛み合わせは整いません。
歯並びの調整には、歯全体を動かす専門的な治療が求められるため、歯並びを治すことを目的とする場合は歯列矯正の専門医に判断を仰ぐ必要があるでしょう。
歯並びの乱れを放置するリスク
インプラントで歯並びを治すのは難しいですが、かといって歯並びが悪い状態のまま放置するのはリスキーです。
ここでは、歯並びの乱れを放置するリスクについて詳しく解説します。
顎周りに歪みが生じる
不正咬合を放置すると顎関節に過剰な負担がかかり、顎関節症を発症する可能性があります。
顎関節症とは、顎の関節や筋肉の痛み、口の開閉時の異音、開口障害を引き起こす病気です。
歯並びを放置するだけで顎関節症になるわけではないですが、噛み合わせが合わないまま会話や食事を続けるのはリスクがあるでしょう。
滑舌や発音に影響が出る
不正咬合のままでいると次第に前歯がずれ、舌の動きが妨げられることでサ行やタ行の発音が不明瞭になることがあります。
滑舌も悪くなり、呂律が回っていない印象を受けることもあるため、早い段階で治療を行うのが理想です。
口元がコンプレックスになる
口元がコンプレックスになりやすいのも、見逃せない問題でしょう。
歯並びの乱れは、口を開けることに抵抗を感じさせる原因の一つです。笑顔に対して自信を失うことで、日常生活だけでなく人間関係にも影響を与える可能性があるわけです。
状況によっては、歯並びの悪さが人格形成にまで影響することも珍しくありません。
口腔内のトラブルにつながる
歯が重なり合うような歯並びの場合、どうしても手動のブラッシングだけでは磨き残しが生じやすくなり、歯周病や虫歯といった口腔内のトラブルにつながります。
口腔内が不衛生な状態が続くと、歯が抜けてしまうこともあります。
歯磨きが正しくできていないと歯石の蓄積も進みやすくなり、細菌が繁殖して口臭の原因にもつながるため、毎日のオーラルケアは欠かせません。
消化不良になる
噛み合わせが悪いと、うまく咀嚼ができず、消化不良に陥りやすいです。
消化不良が続くと慢性的に消化器官に負担がかかり、胃痛や胃もたれなど内蔵に不調が出てくることもあるため、できれば早い段階で治すのが理想といえます。
まとめ
インプラントは失った歯を補う治療法ではありますが、歯並びを整えることが目的の治療ではありません。
噛み合わせに問題がある場合は、まず矯正治療を優先し、その後にインプラントを計画的に導入することで、機能性や審美性を改善する効果が期待できます。
なお、名駅歯科クリニック・矯正歯科では、インプラントと矯正治療の両方に精通した歯科医師が在籍しており、患者さま一人ひとりに合わせた最適な治療プランをご提案しています。
「歯を失ってしまったけれど、歯並びも気になる」「どちらの治療を優先すればいいかわからない」といったお悩みがある方は、まずは当院までご相談いただけると幸いです。
当院では、精密な検査と丁寧なカウンセリングを通じて、将来を見据えた治療が可能です。